村人Aとガムと

モブキャラっているじゃない。

RPGなんかで村に入ると、次の目的地とか倒す敵とかアイテムの場所とかのヒントをくれる、名もなき村人。


俺あれになりたいんだよ。




勇者が何か情報はないかと聞くなら、知っているだけのことを教えるよ。
けど、だからといって勇者に感謝されて、その後も家族ぐるみの付き合いになるとか、そういうのはいらないよ。


優しくされたら、親しくなりたくなる気持ちは分かる。私も好意には応えたいタイプだから。
この人ともっとずっと一緒にいられればなって思うよ。マジで。そんな人は今まで何人もいた。


でも私は中身が最悪なんだ。
ずっと一緒にいることに耐えられるだけの人間としての魅力ってやつがない。

ある程度の年数を生きてきたからソフトな対応はそこそこ身につけてきたんだけど、所詮は付け焼き刃だから。長いこと付き合ってるうちに、メッキが剥がれて赤錆まるけの本来の刀身が見えてしまう。


赤錆まるけの刀なんて、誰がほしいと思う?


噛み終わった、味の抜けたガムは、普通紙に包んでゴミ箱にポイだろ?

私に味があるとすれば、それは最初だけだ。




ガムとしても、「美味しいな」って言ってもらいたいわけだ。その美味しさをずっと味わおうと思ってくれた人がガムを噛み続けて、結果「なんだこれもう味ねーじゃん」って言われるのはつらいわけだ。期待に沿えなくてごめんな、って思う。

だから双方にとって一番いいのは、ガムが美味しいうちにバイバイすることなんだ。
噛んでる人は美味しくてハッピー。
ガムも美味しいとだけ言ってもらえてハッピー。
WINWINじゃないか。



俺を噛み続けたところで、味はなくなる一方だ。
美味しくもなんともないし、ぼろぼろになって歯にくっつくし、いいことなんて何もない。
そんな不味いものは食わなくていい。
美味いところだけ味わって、あとはポイしてくれればそれでいい。ガムってのはそういうものだろ?俺はそれで納得してる。


けど、言えんよな。そんなこと。
「だからあまり俺と関わるな」と言ったら「迷惑だったのかな」って相手に余計な心配をさせるだろうし、「ポイしてくれればいい」なんて、場合によっちゃ「こいつ、私のことを【人をポイ捨てするような非情な人間】だと思ってたのか!」ってキレられてもおかしくない。


そういうつもりは全然なくて、ただ事実として私にそこまでの魅力がないんだよ。それだけだ。

と言いたくても、「そんなことないよ」と言われれば、たとえそれが本音でも建前でも、否定するのは躊躇われる。どんだけ私が性悪かについて詳しく説明することはできるけども、私はこのことについて論戦したいわけじゃない。「そんなことないよ」を言い負かした先に得られるものなんてたかが知れてる。

今後もぜひともよい関係を、と言ってもらえるのは嬉しい。嬉しいけど、同時に「さーて、今度はいつ味がないことに気付かれて幻滅されっかなー」と気が滅入る。



ガムとしても精一杯味が残るよう努力はしてるけど、まあ、そんでも噛むほど味が出てくるスルメには敵わないわけさ。



だから。

ちゃんと付き合うのはスルメと。
俺のことはスルメを見つけるまでの口寂しさを紛らわすための繋ぎ。

そうやって使ってほしいわけだ。




俺は本当に人付き合いには向いてない。
けどそれじゃ社会的に生きていけないから、必死に残念な本性を隠していい人ぶってるだけだ。
それも長くは続かない。続かないんだよ。なぜなら付け焼き刃だからだ。本性ではないからだ。





俺は村人Aになりたいんだ。

俺から欲しい情報が得られたなら、次の瞬間俺のことは忘れてくれて構わない。

冒険は、俺みたいなガムとじゃなくて、スルメさんと一緒にしてほしい。その方が勇者もスルメも俺も、みんな幸せになれる。
俺では一緒に困難を乗り越える相手として不適切だ。




適材適所ってやつだ。
俺にはその程度の価値はあり、それ以上の価値はないと、冷静に正確に把握してる。
やけっぱちになってるわけではない。
かまってちゃんをしてるわけでもない。むしろ構わないでほしい。俺の粗が見えるから。


なかなか他人には分かってはもらえないけど。





分かってもらえないことが分かってるから、私はいつも口をつぐむ。

そうして、捨てられる時を待っている。
望んじゃいないけどね。
けど絶対にその時はくるんだ。
そして、「ガムってほんと最初だけだよな!すぐ味がなくなるから捨ててやった!」という評価を甘んじて受ける。
ちょっとだけ、「だから最初からそう言ってんのに、そんでも食ったのお前だろ」って思いながら。


味の抜けたガムにできる最後のことは、「捨ててやった」と優越感に浸ってもらうことくらいだろ。
それくらいのことをするのは、吝かではない。




なんかポエム入ってるみたいに見えるけど、自己憐憫に浸ってるわけではないよ。
そういうもんだっていう事実を淡々と述べてるだけ。
私は自分がガムであることを嘆いてもいないし、使い捨てられることにショックを受けてるわけでもない。「クッソまずい」と言われれば、さすがにグサッとはくるけど。



なのでまあ、できれば私本人を丸々相手にするんじゃなくて、断片的に、要は美味しい部分だけを利用していただきたい次第なわけだ。

いらなくなったら捨てればいい。
捨てられたら、それはそれで役目を果たし終えたってことで私は休みに入れる。


伝説の剣を手に入れたなら、もうそれに関する情報を持ってる村人Aに用はないはずだ。
スルメさんたちと共に、次の目的地へと旅を続けてほしい。




かなり言葉を選びながら書いたけど、どうだろう。
これでもまだ誰かを不快にさせるだろうか。

それならまあ、いつものように面白おかしい記事だけ書くことにする。
楽しいこと、面白いことが人の心に悪さをすることはあんまりないはずだから。